一揆参戦22日目

――いつか、静かに眠りにつけるまで、

(そんな日は来ない)


――


とても、長い時間を過ごしていたような、そうでもないような気がしています。
ただ確かに自分は、もう終わることも始まることも許されない身体になってしまったのだろうとは、理解しています。
けれど、だからこそ、もう一度自分の足で歩きたいから、

(それは我儘だと理解していた、つもりだった)


――


移動する墓場を呼び止めるのは観測者二人だ。
二人(二匹、と呼称するのがあの姿だと正しいのだろう)の鋭い視線を受けて尚、瑠璃の墓場は怯まない。

「どうした、そんなおっかない顔をして」
「どうしたも何も。緑柱石に何を渡した?」

答え次第では氷長石の起動も辞さない、そう告げてくる深緑の獣の脅しにも屈せず、ラズライトはけらりけらりと笑ってみせた。
エオクローナの中でも最上位の戦闘能力を持つレイトリーデとノカを前にしてなお。

「これだから観測者はおもしろくない」
「答えろラズライト。さもなくば」
「さもなくば氷長石を起動して、この辺り一帯ごとお前を吹き飛ばす、聞き飽きたよ」

体格的に見ても、大柄なレイトリーデとノカに見下ろされる程度(――つまりはヘリオドール程度である)の大きさしかないラズライトがぱっと見で不利なのは、誰が見ても分かるだろうことだった。
それでもどこまでも余裕が有るのはラズライトの方で、口では脅しをかけるノカも、起動すれば絶対的な破壊を振りかざすレイトリーデにも、どこか緊張の色が漂っていた。

「――答えたくないことなのか」
「いいや?単にすぐ答えを教えるのは面白くないだけだ。それになあお前たち、」
「私を吹き飛ばしたところで答えは出てこないよ、それも聞き飽きてんだよラズライト。ほんとてめークソ野郎だな」
「ベストオブクソエオクローナと名高いレイトリーデ様にそう言われるとは光栄だね」
「てめーこそベストオブ悪趣味クソ野郎じゃねーか」

煽り合いは続く。既に不毛だと感づいているノカは既に多くを語らず、口の悪いレイトリーデを特に制御しようとはしない。互いのことは知り尽くしていて、当然手の内も、何をしてはならないのかも、知っている。それが故の何も起こらない言い争い以下のそれ。

「……で、どうするつもりなんだ」
「ああね、あれは一応私が観ている……観はするがね、もともと私の下にはない。少なからず片方は終わりに向かって歩もうとするだろうが、もう片方はわからない。そもそもあいつらは厳密に言うと物語ではないし、終わりがあるのかどうか分からんが。しつこいようだが観はするが手は出さない」

しばらく不毛な言い争いが続いて、疲れたレイトリーデが黙ったところで、ノカが口を開いた。
けらけら笑うラズライトは結局手持ちのカードを開示していく。それでも核心には近づけさせないままに。

「最初からそう言え?わざと俺たちに分かるようにして、緑柱石に渡しただろう。それは最初から呼びつけるのが目的だったな?」
「ノカくん大正解だ。はなまるをあげよう」

ノカの眼前を掠めるように、どこからか紙吹雪が散った。

「……」
「もうやだなーノリが悪いよ!ベストオブクソエオクローナのレイトリーデくん君の相方どうなってるんだい」
「僕はてめーのそのすげえころころ変わるテンションがどうなってんのか知りたいよ」
「構うな。必要な情報は出揃った、行くぞ」
「えっ。ええー?これで?今ので?わけわからんクソかよ。いや何も分かってないでしょ、ちょっと、ノカ!ノカってば――」

最低限の礼儀として一礼すると、ノカはそれ以上目もくれずすたすたと歩き出した。操縦桿がそうした以上、制御を受ける側は従うしかない。それがエオクローナという生き物だ。
それを見送ってラズライトは、頭骨の下でゆるりと笑みを作る。誰にも、見えないが。

「まあ、ほら、グランフラージュもね、退屈な世界よりは刺激的な世界のほうがいいって言うからね」

口からでまかせは幾らでも吐ける。ただそれに引っかかるかどうかは相手次第だ。
ヘリオドールは実にあっさりと、無知ゆえに引っかかってくれたし、ノカなんかはもう分かりきっているのだ。知識と記憶の集積役だから当たり前だろうが。

「所詮はみんな手のひらの上、ってことなんだよなあ。さあ行こうかみんな」

ひとりごとのように発された言葉に、周囲の気配がざわついた。


――


見知らぬ機械と相対してなお、何も恐れずに言葉を吐きつける葉を一枚。
それを感じ取りながら、黎明の果実世界樹の根本、その更に下、張り巡らされた根の揺り籠で微睡む大いなる存在が、息を吐く。

『緑柱石――』

きみは、これから、どう生きる?
何を目的として選択していく?

『これが君の始まりになるだろう』

元素の世界をどう渡っていくのかも、ここでのすべてが終わってからどうするかも、何もかもがようやく君の手の中に委ねられた。
その名は太陽の贈り物。日陰にいた少女に与えられたのか、それとも押し付けられたのか、贈り物の封はようやく解かれた。解くことができた。解いてなお気を狂わせることがなかったのだから、優秀な個体であるのは見て明らかだ。

『育っておいでよ』

始まりの種は、ただ見守るのみだ。

第53回更新
物ドール Lv.30/物シルフ Lv.25/物ケットシー Lv.25/物コルヌ Lv.56/物パロロコン Lv.20/物フラウ Lv.25/物ヘカトンケイルLv.20/物オロチLv.10/物フェンリルLv.5
CLV 5248
MHP 15223/STR 1009/INT 232
MSP 1243 /VIT 410 /MND 318
PSP 106 /TEC 1345/AGI 1148