『人恋しコルヌが鈴で泣く』
『役割を取られた獣は角兎で再生の夢を見るか?』
それは例えるなら皮肉の言い合いであった。
『役割を取ったのはてめえだろうが』
『生まれろと頼んだ覚えもない』
主(ということにしている)のいきものは、ああでもない、こうでもない、と頭を悩ませている。というのも初めて、先行く誰の力も借りないで、エンブリオを狩りに来ているからだ。
どこで知り合い声をかけたのか知らないが、物騒なものを持った娘だ。しかして力量は明らかに、夜色のいきもののほうがあるように見える。あれは頭がいいというか、最適化をして生きているいきものなのだろう。
『ところでだ』
『……何?』
『諸悪の根源は打ち倒され、今に街に凱旋が始まるらしいと聞いた』
戦いは終わった。そう遠くないうちに、この世界を去る、とヘリオドールは言った。
元より何にも縛られていなかった。いつだってこの世界を去ろうと思えば去れた。それでもなおここに居座った理由ははたして、何だろう。出自を知り、正体を知り、余計なものまで見た彼女が、次にすることは。
『そう。ならお別れだ』
されど、それももう関係のないことになる。
エンブリオという体こそ保っていたが、元よりそこに収まり続けるつもりはなかった。外側の殻さえ脱ぎ捨ててしまえばどうとでもなる。――それが、ひとを、強いては輪廻を抜け出した代償に、得たものだ。
輪廻を抜け出してでも守りたいものがあった。抜け出してでも寄り添いたいものがあった。ただ、それだけのことなのだ。
この目の前にいる獣だけは、とかく邪魔な存在だと思ってはいるが。
『へえ?』
『あのヘリオドールとかいうやつとも、あんたともな。俺は探してる人がいるんだ』
『ほんと気に食わねえ』
唸る獣に、【コルヌ】は何の反応も示さない。
『あっそう、勝手にしろよ……第一別にそこまで、俺にこだわる事もないだろう。ガキかよ』
『うっぜえ』
知っている。そうしないと存在意義を見いだせない存在なのを、知っている。それは『彼』が超えるべき問題であり、それを超えられない限りは変わらないし、消せもしない。それが故に鬱陶しく疎ましい。
そしてこうしている姿にはひどく覚えがあるから、余計に、腹が立つ。
『てめえこそ、願いの叶う塔とやらに行くべきなんじゃねえの?とっとと見つけてもらえばすぐだろ』
『眉唾ものの伝承に頼ってられるか』
見つけることだけが望みではないから。
この【ライジュウ】には、否、その中身には、わかるまいに。
『俺はあんたこそ行くべきだと思うけどね。社会見学でもしてこいよ』
『ああ!?』
いきり立つ【ライジュウ】の顔面に【コルヌ】は暴風を一吹き、そもそもの圧倒的な外殻のエンブリオの力量の差がどうにもならない。
黙らされた【ライジュウ】の不服そうな顔を見下ろしながら、鈴の音が静かに吐き捨てる。
『いい加減にその辺どうにかしろよ、端的に言うと鬱陶しいんだけなんだけどあんたのためになんねえの』
かつてそれは願いであった。その願いは叶えられることなく破棄されたが、その身を蝕んでいた力は、完全な破棄を許さなかった。遅すぎたのだ。
そうして宙ぶらりんになった自我はそれでもなお、願いのために動いたが、もはや望まれてはいないそれは完全に行き場を失ってしまった。行き場も失えば、逃げ道も失っていた。それが何処までも許せなかった。
ただ、『自分』は、自分を許してくれそうにはなく、せめて誰かが、誰でもいいから認めてさえくれれば、
『うっせえバーカ』
存在することを認めてくれれば。それだけで、満足できるのに。
駆け去る後ろ姿を見もせずに、【コルヌ】はその場に伏せた。誰のせいだろう、と問われれば、
『――……………』
風が呼んだ名前を掻き消していく。
第64回更新
物ドール Lv.30/物シルフ Lv.25/物ブラックドラゴン Lv.10/物コルヌ Lv.103/物パロロコン Lv.20/物フラウ Lv.25/物ヘカトンケイルLv.25/物オロチLv.10/物フェンリルLv.25/物アルミラージュLv.10
CLV 8730
MHP 27076/STR 2749/INT 296
MSP 2124 /VIT 664 /MND 374
PSP 226 /TEC 3159/AGI 2962