一揆参戦31日目

※山登り過ぎたヘリオの話です。1302の日記と内容的にリンクしています

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あとから来た自分と、最初からいる彼では、捕まえに行けるエンブリオが違う。それで、彼が捕まえられる方のエンブリオを自分が手元に置きたいから、一緒に行ってくれやしないか。頭を下げれば彼は実に快く快諾してくれたし、いろいろこの先のことの世話も焼いてくれた。
そこまではよかったのだ。メルンテーゼに自分より長くいる力を見せつけてもらった。それで済むはずだったのだ。

が。

「……ムツキ。ムツキ!!これはどういうことだ!!」

おかしいなあ。
自分が捕まえに来たのはドラゴンじゃなかったはずなんだけどなあ――


――


江田陸月はひたすらに頭を下げていた。目の前の変な生き物ことへりりんは大層ご立腹なようだった。それも当然だ、大見得切って大丈夫だよと連れ出したのはこちらだし、行き先を提示したのもこちらだ。彼女的には今頃、どちらを取るかみたいな迷いを巡らせていたり、確実に取りに行く方法はどうとか考えたり、そういう時間が待っていると思っていたはずに違いないのだから。

「へりりんごめん。ホントごめん」
「貴様はそれだから馬鹿なんだよ。どこまで行っても馬鹿のままだ、多少見直してやったと思ったのにこれか。多少は頭が回るやつだと思ったのにこれか。何なんだ」

ヘリオドールが自分の装備について相談したら、自分の持ち技やこの先のことも含めて相談に乗ってくれた(どうにもヘリオドール的には、メルンテーゼで装備を整える方法はよくわからなかった)から、散々見下して馬鹿にしてきたのを多少改める必要があると思っていた。
ところがこれである。完全に予定が崩れたというかなんというか、とにもかくにもどうしてこうなったとしか言えないのである。呼ばれた赤髪の男も困惑していたし(――これはどちらかというと、烈火の如くに怒るヘリオドールに向いていたのかもしれないが)、壁も同様に困惑していた。

「で、でもほら……やるからにはさ!なんか!頑張ろうぜ!!うまいことやれば見込みはあるっぽいし!!」
「……忘れるなよ、自分で言うのも何だがな、お前たちは今お荷物を抱えて山を登っているんだ」
「それ込みでなんとかなるっしょ!へーきへーき!!……だから、ちょっと、考える時間をくださいヘリオドールさん……」
「好きにしろよ」

つい、と離れていく夜色に、鈴の音が続いた。
ぽかんとそれを見送ることしかできない青年と壁は、顔(?)を向き合わせて、ため息をひとつ。

「なんでこうなったんだろ」
「そんなの言われても……」

四足の足音の代わりの鈴の音が、山にどんよりと落ちる沈黙を掻き消していった。


――


「わからん」

リン。

「どうせならいっそ勝てないからって言ってくれたほうがまだいい」

リン。

「僕なんかがいたところで、僕なんかがいるから、逆立ちしたって勝てっこない……」

……リリン。

メルンテーゼに来てもうだいぶ立つ。けれど、それと自分たちが今相対する相手と戦える気がするかと言われれば。はっきり言えばしない。しないどころか今までみたいに瞬殺されてしまう気しかしない。
そうして寄生生物みたいにどうにかこうにかやってきたところからすっと抜け出してきたところで、その初戦がこれなのだ。味方に知り合いがいるとはいえ、自分の力不足を嘆くしかない。

「……やるからにはやるけれどな、それは、もちろんそうだ」

リン。

「……悔しい結果になるだろうことは見えているが!それでもだ、ああそれでも」

リン。

「今回とどめを刺せればもちろん勝ちだが、次会った時に全力で殺してやるのもまた、そうだ、……そう、なればいい。そうしてやるさ、絶対にだ」

リン。

「……お前は、そのリンリン言う以外になにか言えないの?」

リン。リン。

「無理か」

……リン。

この、コルヌと、意思疎通ができた試しはない。
肯定しているようだ、というくらいの認識しかしていないし、そうでなくても基本的に何も言わずに従順に従うのだ。リンリンうるさくなっただけで。
そう不毛にリンリン言わせていたところに、見た目の割に軽い足音がした。

「ヘリオドールさん!」

壁だ。

「どうしたの?」


――


名目上の主人である夜色の生き物と壁と、それから青年が話し込んでいるのを遠巻きに眺めながら、【コルヌ】は伏せる。
静かに大地を踏みしめる音。隣に並んでくるのは【ライジュウ】。

「俺ドラゴンに乗り換えよっかなー、強そうだと思わない?」
「てめえにはレベル10止めのヘビがお似合いだ」

捕らぬ狸の皮算用、ひとつ鼻を鳴らして同じように横に伏せった【ライジュウ】の隣、一回りも二回りも小さい【コルヌ】が欠伸をする。
何をしても、何を言っても、この【ライジュウ】以外には、鈴の音にしか聞こえない。

「死ねクソ。……で?なんかあんたも呼び出されんだって?」
「らしいね。薄いとはいえ勝ち目があるなら、やるだけやるまで」
「俺はあんたのその目、嫌いだ」

コルヌの2つの瞳孔が揺れている。
ぎらぎら輝く瞳は、戦いを渇望する眼。

「あいつにそっくりだ、殺したくなる」
「そりゃどうもね。似なくてもいいところが似ちゃったか」

夜色。空色。翠色。
複雑に揺れる瞳の色を確認されるよりも早く、ぴっと【コルヌ】は立ち上がる。主人に呼ばれたからだ。

「俺はそうは言わないが、あれならそうだね、ドラゴンは相手にして不足無し、むしろ多少不利な方が燃えるだろって言うんじゃない」

鈴の音ひとつ。
そうして突風を【ライジュウ】目掛けて吹き付けながら、【コルヌ】は主人のもとへと寄っていく。

「だっ、もうなんなんだ、くそったれ」

間違いなくお留守番だろう【ライジュウ】は、嘆く息をひとつ零しながら、そっとその場に伏せ直した。

第62回更新
物ドール Lv.30/物シルフ Lv.25/物ブラックドラゴン Lv.1/物コルヌ Lv.103/物パロロコン Lv.20/物フラウ Lv.25/物ヘカトンケイルLv.25/物オロチLv.10/物フェンリルLv.25/物ライジュウLv.10
CLV 8335
MHP 26694/STR 2730/INT 294
MSP 2102 /VIT 642 /MND 367
PSP 225 /TEC 3132/AGI 2960