一揆参戦30日目

「スズヒコさんは」

口を開くのが怖かった。

「……あなたの、お父さんは」

どこまでも冷たい空色が突き刺さってきた。

「……自分で、研究所に、火を放ったんです」

事実を告げてなお、微動だにしない表情が恐ろしかった。
それはまるで、もう当に知っていたと言わんばかりの。

「……。……あの、」
「続けてもらって構いません」

誤魔化すことを許さない強い言葉だった。強い子だなあ、とぼんやりと思ったのを、振り払う。今下手に慰めの言葉を吐いたところで、彼女はそれを望んでいないだろうことは明白だった。
ほんとうは、否定したかったのかもしれない。気づいていてそうしたかったのかもしれない。嘘を信じたままでいてほしかったような、後ろめたさを拭い去るために真実を伝えたかったような、どちらが彼女にとって良かったのかは、もはや分からないし、すでに舵は切った。先に進むしかない。

「……俺が、その……たぶん、ですけど。死ぬ前のスズヒコさんに最期に会ったひとなんです。スズヒコさんは俺に、……あなたに、アルムさんに、渡してくれって、手紙を渡して、それっきりで。俺があの日帰ってから1時間もしないうちに火事になったらしいから、……きっと決めてたんだろうなって」

そこまで言って、オーウェルはハッとした。あの日確か、研究室にいたのは偶然とはいえ自分だけ、それでいてスズヒコは自分の帰る時間を執拗に気にしていた。
きっと、なんかで、済ませなくても。あの時すでに彼の決意は固くて、つまりあの時気づけていれば、止められた可能性はあったわけで、――
今更何を言ったって言い訳にしかならないのだろうけど、いつも通りすぎて、彼はいつも通りすぎたから、一体どうやって気づけばよかったと言うのだろう、本当に今更悔いても、仕方ないとしか言えないのだが。

「……そう、ですか。ありがとうございます」
「……へっ」

ひどく責め立てられるだろうと思っていた。
アルムはどこまでも涼しい顔を崩さないままだった。逆にそれが恐ろしい。責める言葉を吐き捨ててほしいとすら思った。

「嘘を信じたままの私にしないで、ありがとうございますってことです。たとえば誰かのせいにしようとする私にならなくて済んで、それでよかった、ってことで」
「ああ、それは、そうだけど、その」
「ネディーさんたちには、とてもよくしてもらいましたから」

ごく一瞬、空色の中に確かな憎悪があったのを見る。

「罰されるべきひとたちは、父によってそうされた。……父の、犠牲で、そうされた、……父のことですから、これ以上なにか面倒なことが起こらないだろうことを、喜んでるでしょうから」
「……そう、ですかね」

オーウェルには、よく分からなかった。何故咲良乃スズヒコという男は、助けを拒むようにして、この世界から消えていったのだろう。ひとり残されることになる、この子のことは、考えなかったのだろうか。
分からない。分からないし、分かろうとも思っていない。ただ、確かなことはひとつあって、

涼しい顔の上のふたつの空色は、確かに悲しみの色を帯びていたのだ。

第61回更新
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PSP 203 /TEC 2793/AGI 2559