一揆参戦29日目

『アルムへ

 まず謝らなければいけません。あなたがこれを読んでいる時には、きっと私はこの世界にいないからです。
 あなたを、ユーエとリラ……お母さんを、置いていくことをどうか許して欲しい。ただ、すぐに分かってほしいとは言わないけれど、何れ全て分かると思います。何故私がそうしたか、その答えは、もう少し待っていてください。

 これは、俺からの、お父さんからのお願いです。それでいて、わがままです。
 あなたは強い子だから、大丈夫だと思いますけれど、どうか。どうか、途中で投げ出さないで、生きてください。
 これからつらいことも、悲しいことも、苦しいことも、たくさんあると思います。けれど、それに負けないで欲しい。
 それと、ユーエのことを、頼みます。きっとそのうち、ユーエとお母さんと、会えるだろうから。
 お父さんの代わりに、ユーエに、優しくしてあげてください。俺が出来ない代わりに。

 スズヒコ』


父の同僚のネディーさん、今いる家の親戚の人、彼からもらった手紙は、もう何度も読み返した。
何度読み返しても、不思議に思うことがある。

父は、逃げ遅れて、焼け死んだはずなのだが。

「……」

それともこれは、自分が試されているのだろうか。
どう考えたって、この文章を書いている時点で、父は分かっている。分かっている、そう、つまり、

「……最ッ低」

そういうことなんだろう。
何故こんなことになったのか、それは、何としてでも聞き出さなければならない事案で、それを今のアルムが聞ける相手といえば――


――……


研究所は取り壊して新しく工事中。そんな中、別の研究所を間借りする形で集った一同の前に、オーウェルは預かり物を突き出した。
預かり物、ないし、背負わされてしまった大仕事。早く降ろしたい荷物。

「……」
「マジで?」
「うわあ スズさん……スズさん命かけてんなあー」
「命かけてんなあもクソも死んだよあのひと」
「復讐かなんかだったんかな」

それはいわゆる内部告発。社会的に元いた場所を潰しにかかる、スズヒコが遺した最後の反撃。
彼はまた知っていた。かつて共に切磋琢磨し合った仲間たちは、??こういう、なんか面白そうなことが、とかく好きなのだ。

「どうする?いつひねる?」
「新しいとこ出来て何事も無く戻ってきてからのほうがダメージでかいぜたぶん」
「情報追加で集めようぜーこれ。たぶんもっと行ける」

案の定である。
そんな様子を眺めながら、この中では一番新入りで、このノリについていけないオーウェルは、ひとつ安堵の息を溢す。とりあえずこれでひとつは、自分が押し付けられたそれは、自分の手から離れていく。

「ネディーおつかれえ。よく持ってたね」
「スズヒコさんがなんで俺を選んだのか、今なら分かる気がします」

娘を預けた家のひとであるのもあるだろうけれど、彼らの中で一番口が硬そうで、一番問題を深刻に受け止めてくれそうなのは自分だった、ということだろう。今ならイヤになるほど分かる。
大きく息を吐いたオーウェルの肩が叩かれる。

「ほんと、おつかれネディー。……スズさんのことは俺達に任せときな」

ぎらついた目。
仲間を失う原因になったそれを駆逐せんと輝く瞳は、どこか悲しみの色に揺れていた。


――……


「……父の、話を?」
「ええ、その、……しなきゃ、いけない時が、来たと思って……」

オーウェルはどちらかと言えば気弱な方に入る人間だという自負があった。一方で話を聞いている限り、スズヒコの娘は――咲良乃アルムは血の気が多くて気が強いと。でれっでれな顔で娘のことを語るスズヒコの記憶がすっと頭を過ぎって消えていった。
ひとつ上の学校に上がって、その髪を父親と同じようにまとめ始めたアルムの、空色の瞳がゆらりと揺れる。

「父が最後に所属していた研究室が、捏造とか動物愛護の問題とかで解体されることになったって話は聞きましたけど、それとなにか関係でも、あるんですか?」
「ふ、っ、……まあ、はあ……そんなとこで……ほんとに頭いいんですね」

深呼吸をひとつ。鋭く向けられる空色の視線が刺さりまくって痛かった。眼鏡のレンズ越しによく見た空色と同じ色が、強い視線を向けている。
観念したように、オーウェル・ネディーは口を開く。それはきっと残酷な事実で、けれどもう彼女は分かっている事実だ。

第60回更新
物ドール Lv.30/物シルフ Lv.25/物ケットシー Lv.25/物コルヌ Lv.85/物パロロコン Lv.20/物フラウ Lv.25/物ヘカトンケイルLv.25/物オロチLv.10/物フェンリルLv.25/物ライジュウLv.10
CLV 7475
MHP 23249/STR 2050/INT 281
MSP 1809 /VIT 628 /MND 386
PSP 177 /TEC 2386/AGI 2152