オーウェル・ネディーは、ひどく責任を感じていた。
純朴な空色は、それ以上何かを言うことを彼に許さなかったからだ。
「(なんで、俺が、こんな)」
ラボで共有して構わないとも、妻に伝えても構わないとも書いてあったその中身は、彼の両手には余るシロモノだった。だからこそ共有を許したのだろうが、それはさておいて。今別の重みが、背中に突き刺さっている。
『……火事で、って聞いています。奥の部屋で実験していて、逃げ遅れたって』
誰がそんなことを話したのか。何にせよそれは確かに最適な答えではあると感じたが、そうなってくると自分の手元にある『二通目』が、なおのこと残酷な色を持つ。
あの男は本当に用意周到で抜け目がなかった。それでいてあっさりと死んでしまった。あっさりと、というか、誰にも手を伸ばさせることを許さず、何の予兆も感じさせず(……というのはちょっと怪しいか)、まるで全てを拒むようにして炎の中で消えていった。……家には何も残っていなかったのだという。写真も、手紙も、つまりは残してきた家族に繋がるようなものが何も。
「(どうして)」
何故彼は。
何故彼は、そこまで。
「……スズヒコさん、どうして?」
「――お父さんは、」
お父さんは、働いている研究所が火事で燃えてしまって、そこから遺体で発見されました、と。
火の手の周りが一番遅かったところで倒れていたから、逃げ遅れたのでしょう、そんなことを言われた。
なぜだかそれは決まりきっていたことのように思えて、何の感情も抱かせない。それが自分の心を守るためなのか、それともほんとうにそう感じさせているのか、アルムには分からなかった。
ただ、そう、これで、
「……楽に、なれたの?」
何かに追い詰められていたような、毎晩泣いて酒を呷っていた姿は、もう見なくていいのだろう。声を殺して泣いていた姿をドアの隙間から窺い知る機会は永遠に失われた。最悪の結果で失われた。
父は何故自分に何も言ってくれなかったのだろう。どこまでも、最期まで、頼れる父親であろうとし続けた父は。我儘言って困らせた父は。お世辞にもその細身は頼れるとは言い難かったが、代わりに父は頭が良かった。その頼れる頭脳は、もう。
「……ちゃんと気づいて、逃げてくれればよかったのに」
可能性をひとつ、踏み躙りたい。
父が自分から逃げなかった可能性を。殺したい。
第59回更新
物ドール Lv.30/物シルフ Lv.25/物ケットシー Lv.25/物コルヌ Lv.81/物パロロコン Lv.20/物フラウ Lv.25/物ヘカトンケイルLv.25/物オロチLv.10/物フェンリルLv.25/物ライジュウLv.5
CLV 7334
MHP 22259/STR 1894/INT 273
MSP 1719 /VIT 617 /MND 375
PSP 165 /TEC 2206/AGI 1978