一揆参戦11日目

(闘技大会に絡めた番外編)



それはかつての、本の世界の中でのことだ。
迷い込んた本の世界で、たくさんのひと(と、ひとでないの)と出会って、確かに自分の運命は変わった。それを決定づけたひとは今でも自分のそばに居て、彼女は、――咲良乃ユーエはメルンテーゼにいる。
そこらに見えるネクターの赤い花がゆらゆら風に揺れていたその日、自然豊かな森の奥、彼はここに村をつくると言った。異論もなにもなかったし、彼がそう言うなら手伝うだけだ。身重の身体に障らない程度に。
きっとこの世界で死ぬんだろう、そんな確信めいたなにかがあった。ずっと旅してきてようやく、ひとところに落ち着けるのは、ひとつ安心を手にしたようで。

そうして数年、なにもなかった森のなかは切り拓かれて、確かに集落と呼べるものが構成されていた。人間はまだ自分たち家族しかいないけれど、きっとそのうち増えるんだろうし、増えなかったらそれはそれで構わないし、アルシノエもタカネも気にしているような様子はないし、心配するようなことは特にはなかった。
頬を撫でていく風が気持ち良い。

「――」

ほんの少しだけ、寂しくなることがある。
かつての友人たちに会う機会は、もうきっと、ない。

「……ううん」

いちばん最初に本の中で会った薬屋の青年とその妹とか、ある意味自分たち夫婦を出会わせたキューピッドの鮫のぬいぐるみを抱えた少女とか、白い魔法を使いこなす魔導師の少女とそれに付き従う魔剣士とか、影でできた犬を連れたエルフの青年とか、きいろの絵の具だと言うほんとうざくてぶん殴りたかった少年とか、不思議なリュックを背負ったブルドッグとかわいいキラーオクトパスとか。
他にもたくさん、「もう会えないだろう」ってひと(以外)はたくさんいて、ほんの少しだけ、本当に、ほんの少しだけ、寂しくなる。
自分は今がほんとうに幸せだから、愛する夫と子どもたちと一緒にいられる今がなにより幸せだから、どうってことはないけれど。
――それに、本を開けば一応は、いつだって彼らと出会えるのだから。

「……んー」

欠伸をひとつ、赤い花がぽつぽつと咲く草原に寝転んで、目を閉じた。
子どもたち二人と、夫の遊びまわる声が遠い――
















『後は任せな!』

それは懐かしい言葉。
彼は何度もそう言って飛び出してきた。

『後は任せな……ってか?』
『素早いから旦那さんかと思ったか? 俺だよ』

……ん?

「!!」

身を起こす。
ぽつりぽつりと咲いていたはずの赤い花とか、子どもたちと夫の姿が見えなかったりとか、――そして何より、自分がいつぞやの本の中と同じ格好をしていたりとか、右手に剣を持っていたりとか、種々の事象が告げてくる。
――これはきっと夢だ。
夢にしては嫌にリアルで、鮮明だけど。しばらく持っていなかったはずの剣はいやに手に馴染んでいた。

「……どういう、」

視線の先に、見覚えのある赤いコートがいる。
息が詰まる。それはかつて、本の中で互いに年甲斐もなくふざけあったその人で間違いがなく、

「……、……ふぇ、で、るたさん、……フェデルタ、さん?」
「……よう」

久しぶりだな、元気にしてたか、そうかかる声に、わからなくなる。今のわたしはいったいどのわたし?この赤いコートの壮年は、どの時間軸で話をしている?

「どうしてここに」
「さあな。それよりユーエ、ちょっとこっち来い」
「? なんなのね」

手招きされて歩いて行くのは確かにメルンテーゼである、その根拠はどこにもない確信はあった。けれど、よく見たはずの赤い花が見当たらないのは、どうして?
そうじゃなくても他に聞きたいことはたくさんあって、けれどどうしてだろう、いざ顔を突き合わせてみたら何も出てこないのだ。

「世界は違うしお前はびっくりするだろうけど、たまにはこういうのもいいだろって、思ってな」
「……おじさんもっと分かるように言ってよ」
「うるせえな。……俺だってよく分かってないんだ」

歩いて行く先、見えるのはもう二人の人影。
特徴的な髪型のギターを背負った青年と、褐色の肌の蛇の青年……まさか。

「……ねえおじさん」
「……何だ」
「まさかとは思うけど、また本の中みたいなことするの?」

視線が横に逸れていく。
さてはたして、拳で殴るべきか剣の鞘で殴るべきか。

「お前は後ろから指くわえて見てりゃいいんだよ」
「何よ、何なのねそれ、ぜんぜんわかんないわ」
「ここと本の中じゃ全然違うってことだよ、……びっくりすんなよ?」

それに、と、男が一旦言葉を切ったタイミングで、気づいたのか、人影が二つ、手を振ってくる。
軽く手を振り返してから続けられた言葉は、

「――それにお前になんかあった日には、あの勇者様に首を跳ねられそうだしな」

夢だとしても、そうでなかったとしても、このひとは大して変わってない。
そう思えた瞬間に、なんだかとても嬉しくなって、これからあるだろういろいろな殴りたいことは、どこかに追いやってしまってもいいだろうと思えた。
今はきっとまた出会えたことに喜ぶべきなのだ。
……たとえこの後どれだけあの三人に殺意を積み上げるだろうことになっても。

「なにかあったらアルに言ってやるわ」
「……勘弁してくれ」







第4回闘技大会の出場メンバー決定!
  ユーエ(9)
  カズト(44)
  フェデルタ(301)
  セラティヤ(386)




第42回更新
物ドール Lv.30/物シルフ Lv.25/物ケットシー Lv.25/物コルヌ Lv.32
CLV 3744
MHP 8538/STR 453/INT 186
MSP 740 /VIT 199/MND 218
PSP 54 /TEC 625/AGI 487