蒼と深海のアンダーマイン

それはもはや執念でもあった。
一度閉じた時の感覚は知っているし、それさえ超越してしまえば、なんてことはないのだろう。今の自分なら、それができる自信があった。世界が閉じれば喪われる力だ、ならばいま全力で行使したところで、誰も怒りはしないだろう(――彼に怒られるかもしれないけれど)。
そんな面持ちで静かに時を待っている。待っている、けれど、眠くて意識が飛びそうになる。既にもう、世界が自分を追い出そうとしているのだ。寝たら負ける。その一心でひたすら耐えていた。

「……あー、るー」
「んー?」

心配そうに覗き込んでくる彼は、どうしてか小さい姿だった。
自分もかつて同じような現象に見舞われたから、この本の中ではなんでもありなんだろう、と半ば諦めてはいる。むしろ女になっちゃったとかじゃなくてよかったと切に思う。ただとにかくその、小さい彼はほんとうに可愛くて、同じ人物なのかととにかく疑いたくなるんだけど、中身はしっかりよく知るアルキメンデスそのものだし、それでいて自分の知らない彼の一面を前面に押し出してきていた気がして、とにかく新鮮で、そして愛しかったのだ。
もし、本当にもし、仮定の話だけれど、彼と小さい頃から知り合いだったら、もっと学校を楽しめていたのかもしれないなあ、というのは淡い期待か。彼が助けてくれたんじゃないだろうか、という淡すぎる期待をしたくなるが、自分たちをここまで導いたのはこの戯書だ。だからきっと、すれ違うことも、混ざり合うことも、この本なくしてはなかったのだろう。仮定はどこまで行っても仮定だ。
一応は最後の時だから、そんな訳のわからない思考が頭の中をぐるぐると回って、どうしようもなく苦しくなった。手を伸ばす。小さな身体がすっぽりと腕の中に収まるのも、今だけだ。いつもは自分が収められてしまう側だから。

「無理はするなよ?」

甲高い声がそう諭してくる。
そんなのはもう聞き飽きたし、その忠告は今から無視をする。元の世界に戻れば間違いなく、再び本を開くのを姉に止められるのが目に見えていた。妥協したとして、恐らく行ってもいいけどページを捲るのをやめろと言われるくらいの、それくらいの自覚はあった。過負荷(オーバードライブ)による身体と精神へのダメージは深刻で、特に精神面がぐらついているのは自分が一番よくわかる。いつだって不安で脳が溶けそうになって口を開けばネガティブを吐き出し、口を開かなくても常に不安が付き纏う(――それはなんかもう、仕方ないことの気がしてきた、避けられない事案、仕方ないのだ、つらいのは自分だけじゃないのに)。どこかで道を踏み外してしまったほうがずっとずーっと楽なんじゃないかとすら思うが、彼が微笑んでそっと触れてきただけで、それらは全部浄化されてどこかに吹き飛んでいくのだ。
だからわたしは、もしその時が来たらどうなるのだろう、全く想像がつかないでいる。

「だいじょうぶ、よ、だいじょうぶだから、わたしの側にいて」
「うん、わかった。ずっとユーエのそばにいるから、ね?」

その言葉が本当になればいいのに。

「……アル、こっち向いて」

何の疑いもなく向いてきた小さな顔をまっすぐに捉えて、そっと。

「――ごめんなさい」

深く口付けた。相手の体全体から戸惑いが伝わってきて、申し訳なくなる。悪いのは誰だろう。わたし?それとも彼?
そんなのはとてもじゃないけど分からない。今はそれどころじゃない、そんなことを考えている余裕が無い。理性がぐらつく。だめだ、とまれ。

「――ッ!?」
「……ごめん、ね……」

すっかり顔を赤くして身を強張らせてしまったアルキメンデスの、――今だけの、小さな身体を強く抱きしめた。限りない愛しさと征服欲と反撃の狼煙が、ゆらりと理性を突き崩していく。まだ。そんなことは。しない。
いつだってやられっ放しなのは自分だった。それでいいと思っていたから、いつだって受け入れてきた。そうされるのが最前で最高だと思っていたから。ただ、今目の前にいる彼には、とにもかくにも庇護欲を掻き立てられる。小さくて可愛くて笑えば可愛くいつも自分が平然としていることにとんでもなく照れては顔を伏せる様の、かわいさ!
今まで見たことのない姿に完璧にやられた気がする。別に小さい男の子がどうとかそういうのではなくて、彼だからなのだ。今までかっこいいところばかり見てきたから、余計にそう感じるのは少なからずあるかも知れない。今まで見たこともないような姿なのが悪いのだ。わたしは悪くない。
今だって顔を真赤にして胸に顔をうずめているけど、いつもだったら随分と至福そうな顔で顔を擦り寄せるくらいのことはするのだから、とても同一人物とは思えない。思いたくない。

「……なあに、なに、どうしたのアル、……わたしはいつものことをしただけよ……」
「う、……だって……」

そうなのだ。いつもはむしろ彼の方から積極的に来るくらいなのに。顔色一つ変えずに応じてくるくらいなのに。

「……だって、なあに?それとも嫌だった?」
「……嫌じゃないよ、びっくり、しただけ……」

そう言ってはにかむ姿が、なおのこと理性を揺らした。
どうして今わたしは理性と戦っているんだ。

「……ふふ、……ごめんね、びっくりさせて、だいすきよ、アル」

抑えこむようにもう一度深く、今度は彼も応えてくれた。小さな舌が絡められてぞくぞくする。
互いの唇が離されて、唾液の糸に引かれるようにこぼれ落ちる、本心。

「……ふふ、アル、……アル、――このままここで今からしちゃおうか?」

何も言わずに抱きしめてきた小さな手の意図するところは何だろうか。中身はそのまま24歳の彼だということなのだろうか。それとも単なる羞恥の現れなのか。
冗談ね、と誤魔化せば、呆れたような声が発された。

「……もう、……」
「――なに、……、期待でもした?」

彼は胸に顔をうずめたまま、黙して何も語ってくれない。照れている。
どうしようもないな、と思ったその時だ。意識が、ぐいと引っ張られる。――世界が、閉じる!

「――ッ、う」
「……ユーエ? ユーエ!?」

腕の中に収まっている彼を強く抱きしめたのは、少しでも心配をかけさせないつもりで。今からわたしは無理をする。それを見られたくないのもあった。
世界の意思が、本からユーエを引き剥がさんとするのに、徹底的に、抵抗してやるのだ、今から!

「――あー……ぐ、ぁ、アル、……アル、ぅ」
「ユーエ、どうした、……ユーエ、ねえってば、ユーエ!」

溢れ出るのは、ただの欲である。
この世界で。誰もかれもがいなくなっているはずの世界で。少なくとも見知った顔には誰にも邪魔されずに、彼を占有できるのだとしたら、これほど嬉しいことがあるだろうか!
背から零れた青い光が、本と彼女を縫いつけて縛る。彼の目には一切入らないで欲しい、それか入っていたとして、これから忘れさせてしまえばいい。わたししか見ないで欲しい。考えられなくしてしまえばいい。
過負荷による抵抗の末、すっと意識が鮮明になった。世界は彼女を引き剥がすことを諦めたのだ。眠くもない。だるさもない。あの時怯えたものはもうどこにもない。

「ユー、エ、苦しい、……今、なにを、したんだ、」
「……ごめん、ね、……でももう大丈夫だから」

頭も驚くほど良く回る。ソファの上、ずっとずっと抱きしめていた小さな身体を解放して、乱暴に押し倒した。何度もそうされたように。

「――え?」
「このまま、ここで、今からしちゃおうか、……だって世界は閉じてるわ、だあれも分からない、から」

途端に火がついたようにアルキメンデスの顔は赤くなる。けれどもユーエの下から逃れようとする気配はどこにもない。
それはいつも自分がしているような。

「ゆ、ユーエ、……」
「嫌なの?――嫌じゃないんでしょ?むしろして欲しいんでしょ?だって、だってそうよ、アル、あなたの気持ち、いますっごくわかる」

耳元で囁く、

「――わたしとおんなじだものね」

そのままご挨拶、と言わんばかりに首筋に下を這わせば、甲高い声が上がった。きっとびっくりしたからなんだろうけれど、それでも理性の箍を外すのには十分すぎた。
卑怯だとは思う。普段絶対に優位に立てないし、立とうとも思わない相手だ。状況の異常性と、自分の精神の異常さが呼応して、化学反応でも起こしたかのように、生まれたのは征服欲だ。一矢報いてしまいたい。彼が戻ってしまう前に。
きっと彼は元に戻ったらわたしにこれでもかと手を出すのだろう、面白くないのだろう、優位に立たれるのは。だからこそ、だからこそだ。反撃を予期して手出ししておくことの愚かさたるや!そして自分の、どうしようもないまでに彼に堕ちている、精神の異常さ、――きっと馬鹿なのだ。けれど馬鹿で構わない、……ああ、これも、彼によく言われた言葉だ。今の自分たちはどこまで状況が逆転しているのだろう。

「は、恥ずかしいから、その」
「わたしと同じようなこと言わないでよ、アルのくせに」

威圧するように言葉を振り下ろして、いつもは彼がしてくることをそのままなぞるように、ズボンに手を掛けて、下ろした。


「ぅ、あ――!!」

閉じようとする足は、片手で十分止めることができた。
今自分はどんな顔をしているのだろう。どんな顔で彼を見ているのだろう。わたしもまた、彼に見たことのない一面でも、見せているのだろうか。
自分でさえ知らなかった、加虐の面。虐げられ続けて黙り込んでいた一面が首をもたげて威嚇する。

「いつも、いつも全然恥ずかしがらないくせして、わたしの顔に向かって突き出してきたこともあったくせして」

彼が頼んでくるから、泣きそうになりながら口に含んだことだってあるそれは、身体相応のサイズではありながら、しっかりと存在を主張していた。
いつも見たときに先行してやってくる嫌悪感だか何だかよくわからないものは、今はどこにもない。今はただ愛しい。

「……そ、れは、その」
「ちっちゃいアルも、かわいい、のよ、……ふふ」

そっと銜えて口に含む。
唇の先でやわらかに刺激を与えながら、そっと舌を絡めた。反応してびくつくそれの、皮を剥かんとして。

「ふ……っあ、ぅ、あぁ」

舌で弄ぶたびに身体をびくつかせて、両手で押さえた口許からはぽろぽろと喘ぎ声が溢れていた。押さえる意味などどこにもない。抑えられるわけがないのだから。
かわいい。限りなく愛しい。どうしてこんなことしているんだろう、というやんわりした疑問か吹き飛ぶくらいには。

「ゆー、え、あっ……う、ひゃっ、あ、うあっ」

どうすればいいだとか、どこを攻めればいいかとか、どこが気持ちいいだとか、そういうのは全部、目の前で喘ぐ彼が教えたことだ。
自分の教えたことで攻められる気分はどうなんだろう?そう煽ってやりたい気もあるが、口が空かない。

「ゆーえ、ゆーえ、……ッ、うぅ……っ、だ、め、ゆーえ、あ、っ……」

快感で蕩けた顔を晒して、いつになく声をあげて喘ぐ姿が、よりいっそう加虐心を煽った。いつもは絶対見れない姿で、そしてもう見れない姿に違いない。そう思えば余計に攻めの手を休めることはできなかった。

「ゆー、え、あ、ゆーえ、……ッ、あ、ゆーえ、ゆーえ……!!」
「……!」

一際大きく身体を仰け反らせて大きく彼が震えた一方で、覚悟していた味が口の中に広がることはなかった。
それもそうか、と一人で納得する。つまりは生殖可能な状態以下に肉体が巻き戻されている、ということか。

「う、あ、あぅ、……」
「……気持ちよかった?」

手を伸ばす。縋るようにアルキメンデスも手を伸ばしてきて、ぎゅっと抱きしめてくる。触れるくらいのキスを数度落として、それから耳元で煽るように囁く、

――もっと、したい?

返事は無い代わりに、抱きしめてくる力が強くなった。

「しよっか、アル」
「……う、ぅ……、でも、」
「さっき出なかったから大丈夫ね」

心配するまでもない。
そもそも夫婦なのだ、それぐらいの覚悟は当に出来ている。どうしてそうしないのかは、なんとなく分かってはいるけれど、なおのこと彼が好きになりそうだからそれ以上考えるのはやめておくことにする。それはきっと配慮だ。

「……うー、……!」

何事か言いたげな彼を無視して、服を脱ぐ。豊満な胸が顕になって、それから真っ赤な顔の彼と目があった。視線を逸らされてしまった。恥ずかしいのか。

「おいで、アル」
「……」

呼ばれれば素直に飛び込んできて、胸に顔をうずめてくるのだ。
素肌同士が触れて暖かい。子供の体温は高いという話だけれど、随分と熱を持っている気がするのは錯覚が何かだろうか。

「……うー……」
「アルがいやならおしまいでいいのよ」

自分にはそこまでしてやる技量も度胸も、なにも、ないから。
我ながら卑怯だなとは思った。ただ、自分が嫌ならしなくていい、っていうのも、彼の受け売りだ。彼はわたしが嫌だって言わないのを知っているし、本当に嫌な時は断固として断るのも知っているから。だから同じことを自分もするだけだ。

「……」
「どうなのね」
「……ゆ、ユーエと、したい」

真っ赤な顔で、潤んだ目で、見上げるようにしてそう言うのだ、とても反則のように思えた。
そんな顔されたら我慢ならない。

「ふふ。……いい、わよ、……ほら」

相手にしてるのは子供じゃない。24歳勇者だ。それくらいの言い聞かせがないと背徳感で頭がおかしくなりそうだった。
今までの一連の流れで、既に濡らしてしまっているのも、相手が彼だからであって、決して小児性愛の気があるとかそういうのではないのだ、天に誓ってそうだ。

「ユーエ、……」
「わたしならだいじょうぶよ、……こわくないわ」

キスをひとつ、ふたつ、それからそっと足の間に誘導して、――自分がリードしている、彼をリードしている、そう思うだけで頭が蕩ける。

「いいよ」

小さな手が太腿に置かれて、またはにかんだように笑う様が、もう。絶対見れない姿なのか、と思うと、とにかく目に焼き付けておきたくて、

「……うん」

濡れた花園に小さな侵入者がひとつ。
普段のそれとはまた違った感覚に、小さく声が漏れた。

「ん……っ、あ」
「ふあ、ぁ……ゆ、ゆーえ、ユーエ、の、なか、ぁ」

こっち向いて、と向かせた顔はすでに蕩けきっていて、向かい合ってぎゅう、と抱きしめている間にも、腰を動かしたいのかふるふると震えていた。
懇願するような視線。求めているのは、見た目に見合わぬ快楽。それを与えることができるのは自分だけ。

「いいよ、アル、好きにして」

許可を待ち望んでいたように、彼は動き始めた。
思えばいつからだろう、許可など取らずに耳を噛んでそのままなしくずしにされるようになったのは。それより前を思い出して、ゆらりと懐かしい気分が立ち昇る。余裕は確かにあったが、油断すると甘い声が零れる気がして、気が抜けない。別に零したっていいのだろうけど、今は余裕を見せつけていたかった。
余裕のない彼は、初めて見る。

「ふっ、あ、ゆーえ、……ゆー、え、つっあ、う」
「わたしは、逃げないのね……アル、」
「あっ、あ、ちが、違う、の、……気持ちいいから、っあ、へん、なの」

たまらず抱きしめた身体が熱いのは、子供の体温なのか、それとも。

「へんじゃない、から、いいのよ」
「……ッ!」

彼が動くのを阻害しない程度に優しく頭を撫でながら、そう言った。潤んだ青色と目が合って、こちらからかかってしまえばいいのでは、とすら思わされる(――そんな技能はないので心の奥にしまった)。 また彼が動き出す。快楽を求める姿が限りなく愛しい。

「ふ、あ……ゆーえ、あ、また、おかしくなっちゃう、だめ、だよお、あ」
「……ふふ、いいの、いいのよ、アル、……ね?」
「う……っあ、ユーエ、……ゆーえ、ゆーえ……ッ!!」

こんなことしているなんて誰にも分からない、ふたりだけの秘密だ。閉じた世界、再構築される世界で、愛しいひととふたりきり。もう二度とないことだろう。状態も含めて。
再び絶頂して果てた彼の小さな身体をそっと抱きしめて、ぴったりとくっついて離さない。いつも余韻に浸る間もなく離れて行かれてしまうから(――慎重を期すなら仕方ないことなのだけど)。

「ゆー、え……」
「――もうちょっとこのままで、いさせて」

そう言って目を合わせた青色は、妙に鋭い色な気がした。
言うなればそれは今まで見慣れたような。

「……ユーエ」

呼ぶ声が低い。

「なあに、……ッ、う!?」

不意に突き上げてきた衝撃に、脳髄が焼かれる。物足りなさを確実に埋めてくるそれは、今まで何度も受け入れてきたそれで、

「なあユーエ」

数度瞬きした合間に、疑惑が確信に変わって、それから困惑へシフトしていった。
相対する相手は、見間違いようがなくいつもの彼なのだ。余裕の色を湛えた青色の瞳が真っ直ぐに見つめてきている。

「……な、なに」
「お前って、そんなに積極的だったんだな」
「ひゃあ、ぅ、ちっが」

そのままソファに押し倒されて、状況が飲み込めないままのユーエに、アルキメンデスは全く容赦しない。

「相手は俺って言っても子供だぞ?そんなに溜まってたのか」
「あっ、ああ、アルに!言われたくは、っな……ひ、っう!」

彼女の秘所に咥え込まれたままのそれを押し付けるように動かせば、奥深くまで当たって彼女の身体が跳ねる。
先程まで優位に立っていた相手に逆転される気分はいかがだろうか。問うてみたい気はあったが余裕がない。散々彼女に弄ばれたぶん、犯して屈服させたくて仕方が無い。思えばいいように扱われていたことも思い出して、なおのこと、おしおきがいる。

「誘ったのはユーエだろ、……悪いけど我慢の限界だ、覚悟しろよ」
「えっ、あ?ちょ、っと待っ、……あ、っう、あ!」

乱暴に突き上げれば、豊満な胸が揺れる。飛び込みたくなるそれを堪能する余裕が欲しい、――それは後でも許されるか。
今はただ、ただ、この欲を全部吐き出すことしか考えられない。

「あ、っあ、あ、ある、ぅ、あ」
「ユーエ、……ッ、……ユーエ、ユーエ」

強引に口を塞いで、深く口付けて口内をも蹂躙する。ねっとりと絡み合う濃厚な口付けを続けて、唇を離す頃にはユーエはすっかり蕩けた顔でいる。
その蕩けた顔で、彼女はとんでもないことを口走った。

「あ、ある、……ふ、あ、なか、に、だして、も、いいよ、……っあ」
「……ユーエお前何言って、……!?」

つけてない。
というかそんな余地がなかった。もうちょっとこのままでいさせて、という彼女の言葉を受け入れたのがまずかったのか。そもそもこんな展開が予想できたら苦労していない。きっとそれは彼女だって同じだろうが、まさかそう言ってくるとは思わなかったのだ、――言われなかったら気づかなかったかもしれないけど。
無責任なことはしたくないのと、このまま続けたい情動が葛藤する。そんなことをしている間にもユーエは、色づいた声で鳴くのだ、

「あ、ありゅ、ぅ、あ」

今打てる最善手を打って祈ることにした。

「……クッソ、……ユーエお前、……今度、きつーくお仕置きだな」
「ふえ……? わ、わたし、わるいこ、と、あっ、して、ない、……ひあっ、あ」

直接ユーエと繋がっている感覚が、理性を焼き殺しに掛かってくる。それでも、無責任なことはしたくないから、その一心だけで戦うように、突いては戻す、を繰り返す。
悲しむひとを無為に増やしたくはないから、そう思えば平気な気がした。

「あ、ぁ、……っあ、ある、ぅ、ありゅ、あ」
「ユーエ……ユーエ、……出すぞ、……っ!!」

きゅ、と目を瞑ったのを見て、それ相応に覚悟はしていたんだろう、と思った。その顔は少し怯えているようにも見えた。ならなおのこと、そんなことは、しない。できない。
果てるその瞬間に花園を脱出した彼自身が、白濁を吐き散らす。

「う、っお、あ」
「……うえ、……ふえっ!?」

目を瞑っていてくれてよかったと思ったのはさんざ吐き散らかされたあとで、彼女の柔らかな腹部に留まらず、その豊かな双丘と、あげく顔まで、白濁が汚している。
……これはこれでとても、そそる。

「う、うええ、……な、なに、……べたべたする……きもちわるい……」

薄目を開けてそう宣う彼女に、そっと口付ける。
あとは互いに反省会だ。

「……ごめんここまで飛ぶと思わなかった」
「……わ、わたしこそ、ごめん、その、……うぅ」
「いや、いいんだ、……ユーエの覚悟は分かったよ、けど」

ティッシュで顔を拭ってやりつつ、優しく頭を撫でて、そっとユーエを抱きとめた。
結局制限要因になっているのは自分なのだから、と思うと、気が重くなる。けれどまさか、そんな無責任なことはできないから。全てを終わらせてからでも、遅くはない。自分がそれをやり遂げるのが間違いないだろうことは、小さな二人が教えてくれたから、まだ立っていられる。

「お前にそんな苦労掛けたくないからさ、……な?だからもう少し待ってくれよ」
「……うん」

キスして、とせがんでくる声に応じて、深く口付けた。
穴開きの理性に、ばちりと刺激が走った。

「……ユーエ、……ごめん、……もっかい、いいかな」
「う、うええ」
「……いやその、分かってくれよ」

ひとえに、白濁に汚された彼女の姿が、思いっきり背中を押したのは認めるしかない。
困ったような顔をして、それでもユーエはやんわりと笑った。口に出して返事をするのが恥ずかしい時に、いつもこうやって肯定の意を示してくるのだ。知っている。

「……それに、世界は閉じてるから、誰にも分からないんだろ?」

閉じた世界がまた開くまで、ずっとこうしているのもありなのかもしれない。
それなら、

「……ずっと、閉じたまんまなら、いいのに」
「このまま二人きりでずっと、か?」
「わたしはそれでもいいわ」

再び唇が重ねられて、指を絡めて手を握って、愛を囁く。

「だいすき、アル」
「……俺もだよ、ユーエ。愛してる」

閉じた世界、再構築される世界で、愛しいひととふたりきり。
もう二度とないだろう空間にしあわせを埋めて、世界が開くときを二人で待つ。
20140719
そらとふかみのあんだーまいん、です。インタールードといい感じにかかったのまではいいんですがえろになってしまった。
延々と続くおねショタアルユエトークが愉快なことになってたのがこの頃かは定かではないですがおねショタ楽しかった。前半はログからセリフを拾ってます。
アルユエの公式は互いに頭がどうかしている。少なくとも俺はダメです。すごくだめです。